英語を教えること、吉田研作先生にお聞きしました。
英語を教えること、吉田研作先生にお聞きしました。

グローバル化やデジタル化の波に押され、日本の学校英語教育が大きな段差を乗り越えようとする今、長く英語教育に携わられ、学習指導要領改訂にも関わられた吉田研作先生にお話をうかがいました。

Q1今回の学習指導要領の大きな変更点は?

外国語の構造や知識を「覚える」ことからコミュニケーションに導こうとする今までの教え方から、外国語で「コミュニケーションする」ことを目標にした教え方に大きく変わったことです。ですから今回の外国語の学習指導要領は、学習到達目標をCAN-DO「〜することができる」という指標に統一されました。CAN-DOリストは、少しずつ難しいことができるように、小学校から高校まですべて段階的につながっています。

いつ、どのCAN-DOを学ぶかというカリキュラムのベースになっているのが、CEFR (ヨーロッパ言語共通参照枠) という、外国語を学習、教授、評価する時の習熟度の指標です。「自己紹介できる」というような小学校の最初のCAN-DOから、高校卒業時にはディスカッションやディベートができたり、思っていることを伝えるために英語を使えるところまで、たくさんのCAN-DOを習得していきます。

大切なことは、高校の先生は中学校でどんなCAN-DOを教えているのか、中学校の先生は小学校でどんなCAN-DOを教えているか、学習指導要領や解説書を読んで理解しておいていただきたいということです。児童・生徒が学んできたことがつながっていくようにお願いしたいです。

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Q2ネイティブが話すような英語を目指すべき?

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それは、日本人の英語です。自分の英語で、世界と話し合うことができればいいんです。

CEFRには、「どのCAN-DOができれば、どのレベルか」がわかる能力レベル別の熟達度一覧があります。「助けを得られるならば、簡単なやりとりをすることができる」というA1から、「自然に、流暢かつ正確に自己表現できる」という最上級のC2までの、6段階になっています。この中に、「ネイティブのような」という言葉は出てきません。

CEFRは、異なる言語を使う国々の集合体であるEU (欧州連合) で生まれました。ベースにあるのは、一人の人間が母語を含む複数の言語を身につけ、目的に応じて使えるようにするという複言語主義であり、そのための共通の基準なのです。ドイツ人はドイツの英語を、イタリア人はイタリアの英語を、フィンランド人はフィンランドの英語を話し、それぞれの英語を認め合った上で、コミュニケーションしようということです。ですから、子どもたちには、自分たちの耳で覚えた日本の英語を信じて使うように伝えてあげてください。

Q3新しい英語教育で、育成すべきことは?

育てていただきたいのは、英語で「コミュニケーションできる」という児童・生徒たちの自信です。

「コミュニケーションする」ことを目標に定めた新しい学習指導要領では、育成すべき資質・能力として「人間性など学習に向かう力」「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」の3つをあげています。「知識・技能」で言えば、今までも日本人は中高6年間でたくさんの単語や文法、リスニングなどを学んできました。でも、それだけでは何かをできることにはならず、自信を持てないままここにいます。

3つの資質・技能は、言い換えると「どのように社会や世界と関わり、よりよい人生を実現するか」「何を理解しているか、何ができるか」「理解していること・できることをどう使うか」ということになります。「コミュニケーションする」ことで、「学習に向かう力」を発揮し、「思考力・判断力・表現力等」を働かせるには、「知識・技能」を活用しなければならない。どうしたら、使えるようになるのか。CAN-DOを実践して、生活の中で一つずつ自分のものにしていくんです。知識を身につけても自信にはならなかったけれど、Yes, I can.とできることが増えるたびに子どもたちには自信がついていきます。

Q4主体的・対話的な学びとは?

学習指導要領の中では、アクティブ・ラーニングを「主体的・対話的な学びを通して深い学びへ」といっています。英語の知識を伝授していた頃の一方的な「教え方」ではいけません、ということです。ぜひ、児童・生徒たちが自ら学習に参加し、問題を発見し、考えをまとめ、解決していけるような「学ばせ方」をしてください。ですので、発見学習や問題解決学習として、教室でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークが推奨されています。そういう方法をとることで、児童・生徒たちは、自分の英語で、自分の考えをまとめ、発表する経験をたくさん積めます。

Q5何のために英語でコミュニケーションするのか?

これは「外国語教育における見方・考え方」に示されています。コミュニケーションする(外国語で表現し伝え合う)ためには、「英語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的、場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」とあります。重要なのは「社会や世界、他者との関わりに着目して」と「再構築する」という2点です。

たとえば、“What animal do you like?”と質問し、“I like dogs.”と答える。このやりとりで、whatを使う質問という知識を得ましたね。ただし、これだけでは情報は伝達していても、どんな犬が好きなのか、なぜ好きなのか、いつから飼っているのか、何もわかりません。実際の会話なら、“What kind of dog?”、“Why do you like French bulldogs?”などと質問をして、相手を知ろうとします。その結果「この友だちはフレンチブルドッグみたいな愛嬌のある犬が好きなんだ」と相手に対する考えが再構築されます。コミュニケーションの目的は、単に新しい知識を得るだけでなく、相手のことをわかること。自分の考えをバージョンアップすることなんですね。世界も人も変化しています。だから、コミュニケーションすることが大切になってくるんです。

Q6英語を評価する基準は?

評価に関しては、accuracy (正しいかどうか) に加えてacceptability (適切かどうか) という基準を意識してください。3つの資質・技能の中で、単語の意味、文の構造、使い方のルールなどの「知識・技能」は、間違って覚えてはいけないのでaccuracyで評価されます。一方「知識・技能」を使って、自分で考え、判断し、伝える「思考力・判断力・表現力等」はどうでしょう。目標に合っていれば、どの単語を使っても、どんな言い方をしてもいいわけです。そうなるとaccuracyでは判断できず、acceptabilityで評価することになります。

学習指導要領では、目標として「〜することができる」というCAN-DOがあり、学習内容が「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」の順で示されています。授業でお願いしたいのは、学習内容の順番を入れ替えることです。まず「思考力・判断力・表現力等」を働かせるようにし、それに必要な「知識・技能」を使わせるという指導をしてください。

小学校5〜6年の「話すこと (やりとり) 」で具体的に見てみましょう。CAN-DOは「自分や相手のこと及び身の回りのものに関する事柄について、簡単な語句や基本的な表現を用いてその場で質問をしたり質問に答えたりして、伝え合うことができるようにする」とあります。これを実践するために、友だちと趣味について簡単な会話をしてもらうことにしましょう。その時初めて、CanやDo、Whatを使う質問の仕方やsports、music、gameといった趣味に関する単語などの「知識・技能」を与えます。決して知識ありきではないのです。そして評価する時には、「思考力・判断力・表現力等」を適切に発揮しているか、「知識・技能」を正しく使えているかを見てあげてください。

Q7教師に求められる英語力とは?

もちろん、英語の知識を持つことや4技能について理解することは大切です。けれど今、それだけでは求められる英語力には足りません。児童・生徒には、思考、判断、表現の道具として英語を使おうとする資質や能力が求められています。それならば、教師自身が思考、判断、表現の道具として、自ら英語を使おうとする姿勢が重要です。授業中、英語でプラクティスしていない時も、児童・生徒に英語で質問したり、返事をしたり、声をかけたりする。ALTやボランティアのネイティブスピーカーたちと積極的に会話したり、意見交換したりする。そういう行動が、教師の資質や能力を高めます。

ある小学校で、ALTのようなネイティブスピーカーになりたいかと質問したら、首をかしげられました。どうなりたいかと聞くと、担任の先生のようになりたいと言うのです。ALTは英語が流暢で当たり前。自分の英語を使い、努力してコミュニケーションする担任の先生の姿に、子どもたちは目標を見出していたんですね。教師が、まずYes, I can.と言うこと。そうすれば、子どもたちも自信を持って、Yes, I can.と言えるようになるんです。

Q8 小学校英語では何を意識すべき?

授業では、今日は「〜することができる」を練習するよと目標を示して、英語でコミュニケーションする「習慣」と「楽しさ」を身につけさせてください。

今までの中学からの英語では、まず文法など規則を覚えさせ、それを練習してコミュニケーションに持っていくという教え方でした。小学校での英語は、授業としては週2時間だけです。規則を細々と説明している時間はありません。実際に、児童は3〜4年からいくつかの英文に音声で慣れ親しんでいて、その意味もある程度理解できています。彼らの手持ちの文や単語を活かして、友だち同士や先生と間違えてもいいので、どんどんコミュニケーションさせましょう。その中で、「どうして英語ではこう言うのかな」「あれ、日本語とは違うぞ」といろいろなことに気づきはじめます。その気づきに対して知識を与え、理解を進めるのがいいやり方だと思いますね。そして「〜できること」が一つ増えたら、忘れずにほめてあげましょう。もし、授業の前後や家庭でコミュニケーションの練習ができる教材があれば、利用するといいですね。

Q94技能はどのように教える?

3年生から始まる小学校英語の根本は、音声を使ったコミュニケーションです。積極的にオーラル・コミュニケーションさせる中で、できることを増やしていき、「聞く」「話す」の技能の基礎を固めることが重要です。5〜6年になったら、音声のコミュニケーションを確認する作業として文字を学び、「読み」「書く」に慣れていくことが望ましいと思います。

繰り返しになりますが、英語は週に2時間しかありません。授業ではできるだけコミュニケーションすることに時間を使いたいわけです。4技能の、特に「聞く」「話す」のトレーニングに有効な副教材があれば、活用することも大切です。

Q10「思考力・判断力・表現力」を発揮させるには?

授業のポイントは、知識や技能を教えることから、いかに活発にコミュニケーションさせるかに変わりました。しかも、ただコミュニケーションするのではなく、「思考力・判断力・表現力」を発揮させなければいけないわけです。当然、教師に求められる役割も変わってきています。一つはもちろん知識や技法を教えるティーチャーであり、もう一つは寄り添いながらともに目標達成を目指すファシリテーターです。

児童・生徒は、それぞれのCAN-DOについて、自分で考え、自分で決め、自分らしく伝えることを求められています。知識や正解を与えるのではなく、気づきを引き出してください。彼らを見守り、必要ならキャッチボールをしたり、ヒントを出すのもいいですね。そして、ふさわしい思考や判断、表現を働かせてコミュニケーションをしようとしていたら、その中で必要な知識や技能を身につけるように指導してください。

Q11人とコミュニケーションすることとは?

正直なところ、少し前までは日本国内で生活している限り「英語でコミュニケーションする」必要はなかったんですね。だから、特にアウトプットであるスピーキングを育てる時間が、リスニングやリーディングなどのインプット力を伸ばすのに使われてしまった。でも、新型コロナで大きく変わりましたよね。ビジネスでも、プライベートでも、オンラインで世界中の人とやりとりするのが当たり前になりました。今後、メタバースのような仮想空間が広がれば、日本の自宅にいながら、突然外国の人と出会って英語でコミュニケーションすることが普通になるでしょう。そうしたら、スピーキングとチャットやメールをするライティングといったアウトプット力は待ったなしです。

そんな生身の人とのコミュニケーションでは、スピーキングやライティングができればいい、英語の知識があればいいということでは十分ではありません。互いの文化や習慣、価値観など異なるものを認め合い、人権や環境などの課題を共有した上で、相手に配慮して行わなければ、コミュニケーションで相手への理解を新たにする (再構築する) ことにはつながらないでしょう。これは、日本語でのコミュニケーションでも同じですよね。

難しいことを言いましたが、安心してください。必要に迫られれば、見合った能力は身についていくものですよ。

Q12英語教育で小・中・高の役割は?

CEFRを基にした学習指導要領の大切なポイントは、学習目標のCAN-DOが「小学校から高校まで全部つながっている」ことです。目の前の児童・生徒たちは、この階段を一つずつ登って、英語で会話もディスカッションもディベートもできるようになるのです。

小学校では、初歩的なCAN-DOを身につけることで、まず音に慣れ親しみ、人とコミュニケーションする基礎を作ります。中学では、いろいろなCAN-DOで自分の考えを伝えられるように、使える文法や語彙を増やし、コミュニケーションの幅を広げます。高校では、さらに高度なCAN-DOを通して社会的な問題や抽象的なテーマについてもコミュニケーションする力を養います。10年をリレーしながら英語を教える教師のみなさんには、「高校を卒業する頃には英語を自由に使える子どもたち」という共通のゴールイメージを持って、育ててほしいと思っています。

英語はコミュニケーションすることが大事と教えられたのに、上の学校では、やっぱり正しい文法や語彙で評価すると言われたら、混乱してしまうでしょう。新しい生徒たちが入学してきたら、小学校や中学ではどんなCAN-DOを身につけてきたのかを一人ひとり丁寧に見てあげてください。

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吉田研作(よしだ けんさく)

上智大学名誉教授、公益財団法人日本英語検定協会会長
上智大学外国語学部英語学科卒業。同大学大学院言語学専攻修士課程修了。ミシガン大学大学院博士課程修了。上智大学外国語学部教授、学部長、言語教育研究センター長などを歴任。2021年4月より現職。長く日本の英語教育、異文化間コミュニケーション教育をリードする。文科省をはじめとする外国語教育に関する各委員会にも関わり、英語を使える日本人の育成に向けて活動を行っている。